大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和31年(あ)366号 決定 1956年5月15日

本籍

石巻市石巻字南鰐山一六番地

住居

同市日和山東二四番地

(現在宮城刑務所在所)

電気請負業

伊藤君雄

昭和二年一月一二日生

右住居侵入、窃盗被告事件について昭和三〇年一二月五日仙台高等裁判所の言渡した判決に対し被告人から上告の申立があつたので当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件上告を棄却する

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

弁護人高垣憲臣の上告趣意第一点について。

所論は、単なる法令違反の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。第一審判決は、被告人の判示住居侵入、窃盗の事実を認定し、右所為は刑法五四条一項後段の牽連一罪の関係にあるとして処断したのであるから、被告人が右判決を不服として控訴を申立てるにあたり、「窃盗被告事件に付」控訴を申し立てる旨の申立書を提出しても、右窃盗被告事件と住居侵入被告事件とは、不可分一体の関係にある以上、窃盗被告事件のみが控訴審に移審するのではなくて、住居侵入被告事件も共に移審すること言うまでもない。それ故、原審が住居侵入、窃盗被告事件について審判したことは正当であつて、原審には所論のように刑訴三五七条の解釈を誤つた違法はない。また、原審は訴訟費用の負担について刑訴一八一条一項を適用した趣旨であること、記録上明らかであつて所論の違法はない。

同第二点について。

所論は、原審における国選弁護人選任書の控に裁判長の捺印のないことを理由として、その原本が違法であると速断し、これを前提として憲法三七条三項の違反を主張するのであるが、弁護人の選任書の原本は弁護人に交付し、その案を記録に編綴して置くのであるから、本件記録に編綴されている前示選任書の案に裁判長の捺印がないからといつて直ちに選任書の原本が違法であると言うことはできない(昭和二三年(れ)一四八〇号同二四年二月一日当裁判所第二小法廷判決、集三巻二号六三頁参照)。それ故、所論違憲の主張はその前提を欠き採用できない。

また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よつて同四一四条、三八六条一項三号、一八一条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 島保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎 裁判官 垂水克己)。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例